
以前、所得税が課されないボーダーラインについて、給与所得者は「年収160万円の壁」になることをご案内しました。クリニックや施設で勤務されているパート職員の方には、配偶者(以下、ご主人)の手当や税金の関係で「年収103万円まで」とし、就労調整をしている方もいるでしょう。それでは、今回の税制改正でこういった方についても「年収160万円まで」となったのでしょうか。ここでは、今まで「年収103万円」以下で抑えてきた方が、今後も同じような適用を受けるにはどのラインを考えるべきか、確認します。
ご主人は、一定の要件に該当することで「配偶者控除」を適用することができます。
仮に、ご主人の合計所得金額が800万円である(給与収入ベースに置き換えると年収1,000万円弱、所得税率20%適用と仮定した)場合には、7.6万円(38万円×20%)の税額軽減につながります。
また、住民税の計算においてもこの「配偶者控除」を適用することができ、同じ条件の場合、3.3万円(33万円×10%)の税額軽減につながります。
所得税と住民税あわせて10.9万円(7.6万円+3.3万円)が軽減できることとなります。
「配偶者控除」を適用することができる「一定の要件」のうちに、これまで「合計所得金額48万円以下」という所得要件がありました。
給与の年収に換算すると「年収103万円以下」に相当します。
これが改正により、「合計所得金額58万円以下」となりました。
これは改正後の給与の年収に換算すると、「年収123万円以下」に相当します。
この改正は、所得税は2025年分から、住民税は2026年度分からの適用です。
これまで年収103万円以下で抑えてきた方は、ご主人が「配偶者控除」の適用を受けるため、もしくはご主人が会社から手当を受けるために就労調整を行ってきたものと思われます。また、この範囲でしたら、ご主人の被扶養者としてご自身で社会保険に加入する必要はなく、住民税もまず課税されない(年収100万円を超える場合には生命保険料控除など所得控除が適用できればほぼ課税されない、課税されたとしても少額である)ことから、一律に年収103万円以下をベースにこれまで働いてきたことでしょう。
配偶者控除を適用することができる年収の上限は、改正により123万円となりましたが、本人に係る住民税の課税最低ラインは110万円あたりですし、社会保険の場合には事業者が加入している組合によって、年収106万円を超えるとご自身で社会保険に加入する必要が生じるケースも考えられます。
この他、ご主人が受け取る手当の要件についても、今回の改正でどうなったのか確認する必要があるでしょう。
このように、これまで「年収103万円」という1つの壁で最低ラインが網羅できていたことが、今回の改正により複雑化しています。
家計全体にとって、ご自身にとって、どこまで働くことができるか、改めて確認いただく必要があります。
事業者は、これまで以上にスタッフ1人1人の事情を踏まえて、シフトを組む必要が生じるでしょう。
[参考]
国税庁HP「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
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